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[ひらめき]最終更新日:12/10/2011

Maurice Utrillo 、酒とバラの日々 [vins et arts 芸術と]

シャンパン(オーブ)はルノワール、と深い繋がりがありますが、これは巨匠の奥さんの出身地。
それでは他のワイン産地には芸術家とどんな繋がりがあるでしょう。

ルノワールが描いたオーブ三部作のモデルの1人であるシュザンヌ・バラドンの息子で
画家のモーリス・ユトリロはコニャックに少しばかり縁があります。
(そして、お酒に関しては文句なく大い深みにはまっていた1人です)


 

彼が晩年50歳を過ぎて結婚した相手は10歳以上年上の未亡人リュシー・ヴァロール。
(若い女性が好きな日本人の男性にはちょっと考えられない組み合わせですね。
晩年のユトリロは地位も名声もありましたから・・・
しかし、このユトリロの強烈な人生を見る限り、不思議ではないのですが・・・。)

結婚後、リュシーと共にユトリロはコニャックのシャラントに住んだ事があるのです。

その時に彼が招待されたある名家で、あるデッサンが残されています。
そのデッサンにはユトリロがこのような褒め言葉を書き込んでいます。

 

   

「ユトリロに素晴らしきマーテルと素敵なリュシーを与えてくれたシャラントに万歳!」(1938年)

このデッサンに、この名台詞をうたい文句にすればブランデーは宣伝効果が抜群か!
と一瞬思うのですが、これは大手を振って使えなくなったようです。 

      

シャラント出身の未亡人で、ユトリロの母シュザンヌ・ヴァラドンの知り合いでもあったマダム・リュシー。

コニャックとユトリロについて書いてみたかったのですが・・・・
その前に少しこの波乱と悲劇の画家について触れてみましょう。
(物凄く重たい内容です。結構色々端折っています。
そしてかなり退屈ですので遠慮なく画像だけ見てスルーしてもらって結構ですよ)

 

 

 

波乱万丈で破天荒な人生を歩んだユトリロですが、彼が絵画を始めたきっかけは、単純な理由です。

彼は画家を目指したわけでも、何でもなく
アルコール依存症のリハビリの一環でシュザンヌと医師に勧められて絵を描くようになりました。

 

ユトリロの母は、パリで売れっ子の絵画のモデルで、その交遊関係は実に華やかで、
数多くの巨匠達を魅了し、数え切れないほどの浮名を流した女性で、ユトリロを出産したときは18歳でした。
その後、モデルから絵を描く側になり、才能を発揮するのですが、若い母親は子育てよりも絵や画壇関係の華やかな世界に夢中になり、ユトリロを母親に預けっぱなしになって行きます。

 ルノワールの描いたシュザンヌ・ヴァラドン

 

 18歳のとき、母の恋人でジャーナリストのミゲル・ウトリーリョ・モルリウスによって認知され、以後ユトリロ姓になるのですが、ユトリロ自身は母親姓に強く拘ったようです。
(そのせいで、彼の絵のサインは最後に必ずVという文字が入れられています。)
母親が極めつけの奔放な人生を謳歌する傍ら、ユトリロは非常に強い孤独感・疎外感で不安定な幼少期、少年期を送ります。

そしてそのうち彼は10歳で酒を覚え、あっという間にアルコール依存症になり、数々の問題を起こし、21歳の時には精神病院に入院します。

そこを退院する時に、絵を進められるのです。

シュザンヌはかなり恋多き女性で、幾多の結婚を繰り返し、
何と、ユトリロの友人(しかも彼より3歳年下)のユッテルと結婚します。
(この辺りは、ある意味昼メロみたいです。)

シュザンヌ自身、ユトリロに絵心や才能があったとは思っていなかったようですが
彼の描く絵(白の時代と呼ばれるモノ)は、あっと今に評価があがり、話題になります。
そして母と義父は息子の絵を描かせることに夢中になります。
(これが彼の金蔓絵描き人生の始まりだと言うものもいます)

 

  モンマルトルの坂道 (ユトリロ)

 

 調べていくと、本当にため息が出るほど、自虐的で愛情に飢えた人だと感じずにはいられない彼ですが、同時に、ふと、映画の「酒とバラの日々」を思い出してしまいます。

内容は全くリンクするのもではないのですが、アル中に陥って行く人間の弱さと切なさと、どうしようもない気持ちにさせられる部分は共通です。

 

一方的に解説を読めば、
ヴァラドンと義父で友人のアンドレ・ユッテルは、ユトリロに才能があると知るや否や金の成る木の彼を閉じ込めて売り絵を描かせて二人はその金で贅沢三昧の生活を送っていたらしい。
とか、そのせいで彼の画風が代わり、所謂色彩の時代を迎えてお金に換える為の駄作と言われたりしています。

閉じ込められてひたすら絵を描くことを強いられたという表現が目立ちますが
彼のお酒を飲んだときの凶暴性、起こす問題の数々を思えば、
家から出せなかった・・というような事情も察する事ができるような気もします。
(酒による軽犯罪で服役も何度かしているようです)


 

彼の酒癖は半端なく悪かったようで、そして完全に周囲の子供から年寄りまで軽蔑される乱れっぷりだったようで
彼が外でイーゼルを立てようものなら、(酔っ払って徘徊している時同様に)一斉に石を投げられ、罵られたようです。
彼ほどよく殴られた画家は他にいないだろうと云われるほどで、それほどお酒は彼を狂気に駆り立て、周りから彼はどんどん爪弾きにされていったのです。

そんなわけで、彼は部屋の中で絵葉書を見ながらデッサンしていったと言われています。

もし、彼に絵の才能がなく、また評価もされていなければ
パリの街で酔いつぶれて野垂れ死んでいてもおかしくないほど、乱れた人生を送っていたのです。

 

お酒に走るまでの彼の人生を垣間見ると、
単なる自堕落なアル中と突き放せない、気の毒さが生まれてから死ぬまで通して、彼に絡まっているようにすら思えます。

母親の愛情をひたすら求めた青年は、母親の気を引きたいがために絵を描き続けたような節があります。
そのせいで彼の絵のスタイルは人生の機微に大きく左右されているようです。
本来彼は他の画家のようにその道を極める為に絵を始めた訳でも、続けたわけでもありません。

 

    

モーリス2歳                            モーリスと祖母 (共にシュザンヌ・バラドン作品)

 

彼の人生を調べると、客観的に見れば、かなり薄倖な愛情に飢えた悲劇のアル中画家のように見えて切なくなります。
しかし彼自身はどうだったのでしょう。

そして母親夫婦と決別して、結婚した事は彼にとって、幸せな時代である・・と言う説と
ここでもまた彼は単に利用された・・という説に分かれます。
(彼自身が幸せだったのかどうか誰にも知る由はないとも思いますけど)

 

リュシーはユトリロに白の時代の絵の模写を書くように勧めます。
(彼はまた、愛する者から要求されるがままの絵を描き続けています。)
このことが、彼はいつも誰かの金ヅルだったと言われる所以のようです。

(あぁ、暗いですね。)

 

稼ぎ頭であるユトリロが欲しがるワインも、妻は水で薄めて与えていたようで非難され気味ですが、彼はアル中の亭主です。
アルコールが彼をどんな風に変えてしまうか、また、どんなダメージを与えているかを考えると、家族としては当然の行為じゃないか・・と反論されそうですね。
実際にフランスのアル中問題は日本以上に深刻で、若い世代のお酒離れはこういう依存症が原因で起こった悲劇が家族の周りに少なくないのです。(殺人、自殺に繋がる件数の多さも目立ちます)

 

もっとも、確かにこの奥さんも、後に絵を描くようになって、そのうちユトリロの作品と自分の作品を抱き合わせで法外な値段で売りつけるという商売をしているので憶測は尽きません。

ユトリロの才能はアル中リハビリでなくても見出され花開いていた可能性は非常に高いです。
しかし問題は彼がお酒に逃げた事だと指摘する声もあります。
(ちなみに母のシュザンヌも私生児で同じような幼少時代を送っていますが孤独を別のベクトルへ昇華させちゃってます)
正直な話、家族や親しい身内にとって、入退院や刑務所に送られる、この繰り返しをされるくらいなら、軟禁してでも絵を穏やかに描いていてくれたほうが(売れようが売れまいが)良かったのかもしれません。
幸か不幸か彼の場合、それが高い評価を受け売れまくったが為に身内は色んなことが言われるわけですね。

それでも、さらっと描いて、独学で独自の手法を追求して
これだけ生きている時に評価される彼は只者ではないでしょう。

 

 人間が登場する数少ない作品の一つ


 

そこで例のコニャックのデッサンへ話をちょっと戻しましょう
(これ以上ユトリロの人生のドロドロをここで書いてもど~んとしたムード重たくなりますから)

あのデッサン画、当然ながら彼はコニャックのコルドンブルーを味わいながら描いた事でしょう。
 

     ←私も大好きです。

 

今、彼のコルドンブルーのデッサン画はコニャック会社の大々的な宣伝には使われていません。 

当然といえばそうですね。

アル中から立ち直った(しかし依存症と永遠に戦い続けている)画家にまた酒を勧めて描かせたのか!
って、つっ込みどころが満載ですもの。
アルコール問題にデリケートな昨今、高級ブランデーの宣伝に名画伯とは言えども、アル中の画家のデッサンを宣伝に使用するというのはちょっと問題がありそうで、今は大々的にユトリロのイメージも使用していないようです。

ブランドイメージは老舗メゾンの命ですからね・・・。

  

ユトリロは、よくお酒欲しさに、自分の絵を二束三文で売り飛ばしています。
またモジリアニとの飲んだ暮れ最強伝説も、破天荒な芸術家のエピソードとしては映画で見る方が面白いような気もします。
見る側からはかなりドラマチックです。

当の本人である彼は画家である前に、愛情を求め続けた孤独な人だった。
愛する人が自分に興味を持つための手段として彼は絵を描いていた・・・

そんな印象が拭えない人生を感じます。

 

この重苦しい余韻は、酒とバラの日々のアル中夫婦の堕ちて行く様子を見終わった時の、あの感じに似ているのです。

 不幸の王道呼ばわりされる彼の人生で、何時が幸せだったのか、私にはとても興味があります。
案外私達が感じるほど本人が不幸だと思っていなかったとしたら・・・・。

女性に振り回されることが然程苦だと感じないフランス人も少なからずいますから
悲劇の画家という風に見るのは彼にとってはどうだったのでしょう。


そりゃ一方的だよ、
描きたい絵があったわけじゃないんだ。
好きな人が喜ぶから、彼女達が望むとおりの絵を描いただけだよ。
それに意外と面白かったから。
それだけさ。

天才はそんな風に言うかも知れませんね。
そうなると、彼の人生に胸を痛めていた優しい方は、詰まらなくなるかも知れません。

 

 


nice!(28)  コメント(14) 
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コメント 14

toraneko-tora

大変長い間、ご無沙汰しました
スイスを中心に、アルプスに・・・・ほとんどの場所が2度目ですが、行きたくて行った場所、十分楽しんできました
今日から再開いたしました  また、よろしくお願いいたします
by toraneko-tora (2007-07-31 12:49) 

RangerMaeda

波乱万丈な人生を歩んだユトリロ
なんとも心地よいデッサンを眺めながら読ませて頂きました
又、ユトリロの絵画を見るたびに思い出すでしょう
by RangerMaeda (2007-07-31 12:52) 

nicolas

ユトリロって、ずーーーと昔、絵が日本に来てて「ユトリロ展」してたときに、山手線の広告みて
まだ全然世の中を知らない自分は「ゆとりクチ」だと読んだ覚えが・・・(恥)

ゲージツ家って、こうこなくっちゃ!という要素がてんこ盛りですね。
シアワセな人は芸術を本気で追えないケース多いです。
ナニゴトにもその人の底辺にハングリーな精神がないと、手にできないのかも・・・
こういう人は友人や、ましてや身内にいたらとんでもないでしょうが
歴史には名を残す仕事をしたりするんですよね。コルドンブルー・・・・飲みたぁい♡
by nicolas (2007-07-31 14:40) 

miffy

ユトリロの描くモンマルトル好きです^^
初めてパリに行ったときにユトリロの絵にあるレストランで食事しました。
絵の風景がそのままで、感動したことを思い出しました。
by miffy (2007-07-31 18:01) 

ユトリロの絵って みんな涙がにじんでいるような感じに見えるのですが 
酒の入った目で見てたからってのもあるのかもしれないですね
ルノワールのお話も 楽しませて頂きました☆
by (2007-07-31 22:34) 

Inatimy

子供の頃、父はユトリロ展に行って買ってきたポストカードを私にくれました。
そういえば、シャガールのポストカードももらった覚えが。 
美術館や展覧会へ一緒に見に行ったことは一度もないですが、
子供と離れた自分だけの時間を持つ、父の楽しみ、今、理解できます。

ユトリロは、勧められたから描き始めた・・・それであれだけの絵が描けるなんて、
天から授かった才能ですね、。 
by Inatimy (2007-07-31 23:37) 

TaekoLovesParis

MARTELLには、ユトリロとのつながり話があったんですね。
MARTELLのスケッチの写真も見せてくださっているから、今まで遠い存在だったユトリロを近くに
感じます。50才で60才の人と結婚する、日本ではありえない話ですね。
by TaekoLovesParis (2007-08-01 00:53) 

ユトリロって画家の名前も初めて知りました。 恥ずかしい^^;
勉強になりました。
by (2007-08-01 07:09) 

少し、哀愁を感じるユトリロの絵が好きです。
彼には、こんなエピソードがあったのですね。
偉大な画家達には、それぞれにエピソードがあって、興味深いものです^^。
by (2007-08-01 08:31) 

toco

こんにちは。
初めてコメントさせていただきます。
すごく勉強になりました。
ユトリロの背景がそのようなものだったなんて、知りませんでした。
少し、胸が痛みました。
by toco (2007-08-01 12:07) 

ハイマン

こんばんは!
コニャック飲みながら なんてとっても
ゆっくりいい時間が流れていたんだろうな~
なんて考えちゃいますよ^^
by ハイマン (2007-08-01 23:37) 

julliez

☆tora sama
おかえりなさい。
こちらこそ、宜しくお願いします♪

☆Ranger sama
隊長のフィルターから、ユトリロはどんな風に映るのでしょう▼ω▼

☆にこちゃん
そうそう、芸人の、いえ、芸術家の鏡です。
破天荒ならばこうでなくっちゃ・・・。
と思いますが他人事ですね、ホント。
ユトリくちさんですか、なんだかお金持ちっぽい別人ですねぇ~。ヽ(。ゝω・。)ノ

☆シンナツさま
私もそんなに詳しかった訳じゃないのですよ、
コニャック繋がりで調べたのは、まぁ夏休みの宿題のようなもので・・・・・。(´ω`*)

☆miffy sama
この時代も今も殆ど変わっていないものが多いのがまたパリの魅力だったりするんですよね。
時代を超えて人を魅了する街ですね。

☆mompeli sama
鋭い!!!!
涙がにじんだような・・・素晴らしい洞察力ですね。
酔いつぶれているか、(正気のときは)描いているだけかだったでしょうから
彼の寂しさが見る者に涙で滲んだように見えるのかも。


☆Inatimy sama
素敵な大人1人の過し方をされるお父様なんですね。
絵葉書のお土産なんて、粋ですね。


☆taeko sama
ユトリロの絵ってちょっと寂しげで・・・
それより2歳のユトリロを描いているヴァラドンの絵、ルノワールの描く息子達とえらい違いですよね。
温かさがなくて、うつろなユトリロが怖いです。

☆りんりんさま
破天荒伝説は半端じゃないですが、私は嫌いじゃないです(´ω`*)

☆toko sama
胸がチクっととげが刺さったみたいな感じになりますね。
絵を見るたびにその背景を考えてみてしまいます。

☆ハイマンさま
コニャックを飲みながら、メロン食べていたと思いますよ、
名産なんで・・・(´・ω・`)
by julliez (2007-08-02 06:08) 

どらっち

ワインもそうですが、絵の方も疎いので・・・。
壮絶ですね。本人は、たいしたことじゃないと思ってるかもしれないけど。
みんなが石を投げつけるぐらいの暴れっぷりって・・・。
なんか絵も寂しく見えてしまう。
by どらっち (2007-08-02 07:15) 

nico

この時代だけは勉強したつもりだったけど、改めると全然覚えてないわぁ。
高校生の時にユトリロの絵を模写したことを思い出しましたョ。
by nico (2007-08-12 00:14) 

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